倭人伝の真実 暗号と受信者

皆さんは『魏志倭人伝』に序文が存在することをご存知でしょうか。実はこの序文に、本文を解釈する上で不可欠な基本情報が記されているのです。従来、倭人伝の冒頭部分が解釈を混乱させてきた背景には、この特殊な筆法が影響しています。しかし、「なるほど、どうりで正確に解読できないわけだ」と、すぐに納得できる読者は稀でしょう。なぜなら序文そのものが、ある種の強引な手法で本文内に巧妙に隠されているため、誰もその存在を想像することすら出来ないからです。その手法の核心は「暗号による二重構造化」にあります。換言すれば、倭人伝は、表層的には中国王朝の史書の一部としての体裁を整えつつ、深層には倭人向けの暗号化された情報を埋め込むという、二重のメッセージ体系を有しているのです。この構造的複雑性が、現代に至るまで解釈論争が絶えない根本要因と言えるでしょう。

暗号とは、発信者が、受信者だけに伝えたい情報を、第三者には分からないように秘匿、あるいは偽装する手法のことを言います。発信者が受信者に伝えたい情報を、読むだけでその意味や内容を把握できる表現で書かれたものを平文と言い、簡単には理解できないように暗号化されたものを暗号文と言います。また、受信者が暗号文を平文に戻すことは、復号と言い、第三者が暗号文を元の平文に戻すことを、解読と言います。発信者の陳寿が、想定した受信者に伝えたい情報の平文を、第三者が把握できないように暗号化して書いたのが、魏志倭人伝の原文です。魏志倭人伝は、暗号文なのです。陳寿が伝えたい本来の情報である平文は、序文と本文で構成されています。序文を先に読み、基本情報を把握することで、はじめて本文の真の意味が理解できるように書かれています。陳寿が用いた暗号化の手法は、極めて特殊なものです。核となるのは、序文を分割し、固有名詞として本文に埋め込むという手法です。固有名詞は名前なので、漢字の音としては読まれますが、漢字の意味には関心が及びません。そのため、情報のポケットとなり得ます。また、本文への影響が少なくて済み、暗号文自体もそれなりに読むことができるため、暗号化されている事を気取られにくいのです。文字として漢字のみを使う、中国語ならではの手法であり、実に巧妙であると言えます。この暗号化により、魏志倭人伝は、極めて難解な文書となったのです。

暗号文は、受信者には簡単に復号できて、第三者には簡単には解読できないようになっている必要があります。そこで発信者は、パスワードを知っている者だけが復号できるように、暗号文を作ります。このパスワードのことを、暗号の世界では、鍵と言います。発信者は事前に、受信者だけに鍵を渡しておき、その後、暗号文を送ります。受信者は、受け取った暗号文を、発信者に渡された鍵を使って復号し、平文を得ます。一方、第三者は、暗号文を入手しても、鍵がないので簡単には解読できません。我々読者はよく、「魏志倭人伝を解読する」と言いますが、これは第三者の立場で魏志倭人伝を読もうとしているからです。我々は、暗号の鍵を受け取っていないので、第三者であると感じるのは自然なことです。では、陳寿は、いったい誰を受信者と想定したのでしょうか。そもそも魏志倭人伝は、スパイが受け取るような暗号文とは異質な文書です。事前に受信者に鍵を渡しておくことはできません。なので陳寿は、鍵も魏志倭人伝の原文中に置かなければならなかったのです。こうなると、論理が破綻していると感じるかもしれませんが、大丈夫です。陳寿は、鍵にも鍵を掛けました。鍵を鍵として認識できるかどうかが、受信者と第三者の分かれ目になります。

陳寿が鍵にかけた鍵は、心理です。魏志倭人伝は、倭国について書かれた文章ですが、中国人と倭人では、どちらがより、その内容を知りたいと思うでしょうか。それは当然、倭人です。時代が進むとその欲求は、ますます大きくなります。現代の日本人は、その真の内容が知りたくて仕方がない状態です。この知りたいという欲求に加えて重要なのが、発信者の陳寿を信頼するという心理です。陳寿が、未来の倭人に対して、三世紀の倭国の様子を正確に伝えるために、多大な工数を掛けて倭人伝を書いたと仮定すると、陳寿は、必ず読み取ってくれると、受信者を信頼して書いたことになります。ならば受信者も、陳寿を心の底から信頼して、倭人伝を読まなければならないはずです。しかし現状は、解読を焦るあまり、深く読み解くことをせず、暗号文であることに気づかず、辻褄の合わない表層部分しか読み取っていないので、書き間違いの決めつけや、身勝手な方角の解釈を持ち込むなど、陳寿を信頼する姿勢からは程遠い振る舞いを続けている状態です。

我々日本人は、解読するのではなく、信頼する姿勢で読むことで陳寿から鍵を受け取り、受信者として、暗号文の倭人伝を、平文に復号しなければならないのです。倭人伝の平文は、読むだけで理解できるように書いてあるのですから。

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